アイリッシュセター クラブ オブ アメリカ
(IRISH SETTER CLUB OF AMERICA)

アイリッシュセター・オフィシャル・スタンダード (AKC)

概要
 アイリッシュセターが初めて一般に知られたのは18世紀の初期で、それから100年も経ずにこの評判は確立され、彼らの故郷であるアイルランドだけでなく英国諸島中に広まりました。彼らの起源についての考察はほとんど憶測の域を出ず、先祖として多くの犬種の名前が挙げられますが、どの犬種も確定することが出来ないため、名誉ある先祖としての称号を誇ることはできません。これらの憶測の中には、アイリッシュウォータースパニエルとアイリッシュテリアの混血から改良されたとの説がありますが,イングリッシュセター、スパニエル、ポインターの組み合わせにゴードンセターがわずかに加わったとする説のほうが信じるに値するようです。

 アイリッシュ・レッドセターという名称は,アメリカでこの犬種を認めるためにアイリッシュセター・クラブ・オブ・アメリカによって命名されました。エメラルド島 (芝草が鮮緑色であることからつけられたアイルランドの愛称) での彼らの初期の祖先は、意外にも単色はほとんどいませんでした。大多数の色は赤と白で、白は赤よりも優勢なことが多くあり,今日でも海の向こうでは多くのパーティカラーが見られます。しかしアメリカでは,赤一色、あるいは小さく目立たない白のマーキングのある赤だけが典型的なものとして認められ,大きなパッチ、そして目立った白いパッチについては欠点とされています。アイリッシュセターの全体的に濃いマホガニーのコートは独特のものであり、その毛色を身にまとっているために、この犬種が今日でもドッグショーの人気者であることに役だっています。

 赤と白のセターと区別された、赤一色のセターは、19世紀に初めてアイルランドに登場しました。ファーマナー郡ティマスキーのジョンソン・ハザード氏、セント・ジョージ・ゴア卿、エニスキーレン伯爵たちは全員,赤の単色の繁殖をし、1812年には伯爵のケネルはすべて単色であったという記録があります。数年の後、歴史家ストーンヘンジは『血のような赤、あるいは濃いチェストナッツ、またはマホガニーが、質の高いアイリッシュセターの色である。この色は黒と混ざったものであってはならず、強い光りで調べても、黒の影もウェーブも,まして耳のフリンジに黒が見えたり,あるいは外観の側面にもあってはならない。』と記しています。上記の黒についての記述は、すでに述べたゴードンセターを交配した可能性を示唆するものとして重要です。今日,この黒い色は完全にタブーとされ、ショーでは数本の黒い毛でさえも失格とされています。

 アイリッシュセターの外観についてはこの位にして、次はさらに重要な、目立たないとしても重要な特徴について述べます。この犬種は本質的に猟犬であり、ガンドッグであるので、最終的にはこの目だった赤い犬はハンターと生死を共にすることもあります。初めてアメリカに輸入された犬たちは猟に使われるために連れて来られ、エリマキ雷鳥やウズラ、プレーリーチキンなどは犬たちにとって初めての見なれない鳥でしたが、素晴らしい猟をやってのけたのです。1875年に輸入されたエルコは,アメリカにおいて、彼自身や子孫に対する名声を得た初期のこの犬種の一頭で、ドッグショーでのセンセーショナルな成功だけでなく,完壁に訓練された有能なシューティングドッグでした。

 A.F.フォークウォルトの著作『ザ・モダンセター』からの引用では、『すべての初期のフィールドトライアルの記録を通して見ると,アイリッシュセターは自らの「貴族の血統」によって、フィールドでは常にある程度高い質を保っています。アイリッシュセター愛好者が競技の訓練をそのまま継続していたなら,彼らの好きなこの犬種は、今では他の2犬種よりフィールドトライアルで高い席次を占めていたであろうに』とあります。ここで言われている2犬種とは、もちろんイングリッシュセターとポインターを指しています。
 しかし,アイリッシュセターの人々は、競技の成績を求めることをしませんでした。フィールドトライアルを考える限りでは、リューレンセターとポインターが公式の競技会の結果を実質的に独占していました。このハンディにもかかわらず、エリンからの赤い犬は素晴らしい猟の伴侶としての資質をなにも失うことなく、もしも公平な機会を与えられたなら、すべての種類の猟においてハイクラスのガンドッグとして彼の資質を見せることも、実践することもできたであろうと思われます。

これを述べると不思議に感じるかもしれませんが、この犬種の容姿の良さが,彼らの能力を発揮させなくしたのです。この犬種の持つ決定的な美しさは、その陽気さや勇気そして個性と共に、アイリッシュセターを理想のショードッグにしました。このため多くの愛好者はドッグショーだけの犬種として満足し、フィールドでの能力も同じように値打ちがありながら、正しい色,良いサイズ、そして正しいブリードタイプとは両立しないとして、この最も価値ある目的を犠牲にしたのです。

 この赤い犬の個性的な特徴について一言だけ述べておきます。なにより始めに,この犬種は典型的なアイリッシュで、すなわち無鉄砲で,それがこの犬種を大いに愛すべきものにしているだけでなく、荒れた土地や茨の土地での鳥猟犬としての彼の価値をも増大させています。彼らは大胆であると同時にやさしく,魅力があり忠実です。そして、とにかく実に賢く、タフな犬種です。潅木の中で働きつづけても,動きが鈍ることはほとんどなく、最良の脚力と走るためのギヤを持ち、仕事を叱られても、決して不機嫌にはなりません。

 この犬種は成長がゆっくりで、しばしば他のいくつかの犬種よりも頻繁なトレイニングを必要としますが、潅木の中での扱いはコツがいるものの、強情ではありません。この犬種のフィールドトライアルの選手としての並みはずれた欠点は,彼等の独立心が薄いことと,ハンドラーに注意を払いすぎることなのです。彼の進歩がゆっくりであるという苦情に対する答えとしては、公平に述べるだけですが、ひとたび鳥のトレイニングを受ければ彼のその後の生活は、終生トレイニング済みとなり、秋がくるたびにその過程を繰り返す必要はない,と述べておきましょう。あなたが優れたアイリッシュセターを手に入れたなら,長い年月をずっと自分のものとして過ごせるでしょうし,毎日のように彼等の姿や個性、そして行動に誇りを持つことでしょう。

一般外貌  アイリッシュセターは、深みのある赤い色の、たくましい構成で優雅な、活動的、貴族的な鳥猟犬です。肩で2フィートを越す体高で、耳、胸、尾そして肢の後ろ側では長めの、まっすぐで優美な光沢のあるコートがあります。アイリッシュセターは猟場では敏捷な動きのハンターであり、家庭では性質のやさしい、訓練能力のある伴侶です。彼らの最良の状態では、アイリッシュセターのラインが、全体のバランスに見事に調和しているため、芸術家たちは、すべての犬種の中で最も美しい犬種と呼びました。正しい形のものは、立っていても動いても常に良いバランスを見せます。犬の各部は、無理なく流れるように自然に調和します。

サイズ、プロポーション、サブスタンス  

サイズについての失格はありません。犬の各部の構成と調和、そして全体のバランスをより重要なものとして評価します。キ甲で27インチ(68.6cm)、ショー用の体重は牡で約70ポンド(31.8kg)が理想とされ、牝は25インチ(63.5 cm)、60ポンド(27.2kg)を理想とします。これより1インチを越える体高の上下は好ましくありません。

プロポーション 胸骨端から坐骨端までの体長と、キ甲の一番上から地面までの体高を計ると,アイリッシュセターはわずかに体高より体長が長くなります。

サブスタンス(構成,内容) すべての肢は骨量が豊かで,たくましい。牡の骨格構成は、粗野ではない牡らしさが表われ,牝は貧弱でなく牝らしい表現です。

頭部  長くすっきりとして,長さは少なくとも耳間の長さの2倍です。頭部の美しさは,口吻に沿って、そして眼の周囲と下、及び頬の繊細な彫りを表す起伏によって強調されます。

表現・印象 穏やかであり、注意深い。

  ややアーモンド型の中型サイズで、かなり離れて付き,引っ込んだ眼でも出目でもありません。色は濃い茶からやや濃い茶色。

  充分後ろの低い位置につき,その位置は眼の水平線より上ではありません。耳朶は薄く、頭に接してきれいに折れて垂れています。ほぼ鼻に届くほどの長さがあります。

スカル(頭蓋)は上から,或いは前から見たときに楕円形で、横から見るとごくわずかにドーム型です。眉(額)は盛り上がり、鼻の先と、明確にわかる後頭部(頭蓋骨の後ろ)の間の中間点にはっきりしたストップを示しています。このように後頭部から眉までのほぼ水平なラインは,眼から鼻への直線のやや上にあり、この線と平行で同じ長さです。

口吻 適度に深く、上と下の顎はほぼ同じ長さで、顎のアンダーラインは口吻のトップラインとほぼ平行です。 

 は黒、またはチョコレート,鼻孔は幅広です。上唇はかなり角張った感じであるが,垂れてはいません。

 は上の切歯が下に触れて被さるシザースバイトか、もしくはイーブンバイトでもよい。

首 トップライン,ボディ 

 中程度に長く力強いが,太くはなく、わずかにアーチを描きます。喉のたるみはなく、肩になめらかにおさまります。

トップライン キ甲から尾へのボディのトップラインは堅くなければならず、クループ(臀部)で急に窪むことなく、わずかに下に傾斜します。

は、トップラインの自然な広がりとしてクループにほぼ水平に付き、付け根では強く,先に向かって細くなり、ホックに届くほどの長さです。まっすぐ、あるいはわずかに上にカーブして保持し、背とほぼ水平です。

ボディは、まっすぐで自在な動きが出来るほど十分に長い。

は、深く,ほとんど肘に達し、程よい前胸を持ち、肩が上腕につながるあたりよりも前に広がっています。胸は程よい幅であるため,前進の妨げにならず、充分張った肋部へと後ろに広がっています。

ロイン(腰) 堅く、筋肉質で程よい長さがあります。

フォアクォーター(前躯) 肩甲骨は長く,幅があり,充分後ろに傾斜して、キ甲部ではかなり接近しています。上腕と肩甲骨はほとんど同じ長さで、キ甲頂部からの垂線上にある肘が、胸底に沿って後ろに動けるように充分な角度を持っています。肘は自由に動き,内側にも外側にも傾いていません。   フォアレッグ(前肢) 前肢はまっすぐで筋骨たくましい。力強く,ほぼまっすぐなパスターンである。足(フット)はむしろ小さく,非常に堅く,指はアーチを描いて締まっています。

ハインドクォーター(後躯)  後躯は幅広く、広がりを持ち,良く発達した大腿でなければなりません。後肢は長く、臀部から飛節まで筋肉質です。飛節から地面までは短く,地面に垂直になります。スタイフルと飛節では充分な角度がついて,肘と同じく内側にも外側にも傾いていません。足は前足と同様です。前肢と後肢の角度は釣り合っていなければなりません。

コート(被毛)  頭部と前肢では短く滑らかで、他のすべての部分では適度な長さで体に沿っています。耳では飾り毛は長くシルキーで,前肢の後ろと大腿は,長く優美で、腹と肋部の楽しげな飾り毛が胸へと広がっています。尾の飾り毛は適度に長く,先のほうで細くなります。すべての飾り毛は,出来るだけカールやウェーブがなく、まっすぐです。アイリッシュセターはショーリングに出るために、すっきりとした頭部やみごとな首を強調してトリミングされます。耳の上から1/3の部分と、のどは胸骨端近くまでトリミングされます。足の自然な輪郭を見せるために極端な飾り毛は除かれます。すべてのトリミングは犬の自然な表現を保つために行われるものです。

  黒の混ざりのないマホガニーあるいは,濃いチェストナッツ色。胸.喉,または指の小さな白、あるいは頭部中央にある狭いスジは減点されません。

ゲイト(歩様) トロットで歩様は大きく,非常に快活で,優雅で効率的な歩様です。伸びがあり速度のついたトロットでは、頭部はわずかに前に出て犬のバランスを保ちます。前肢はハックニーゲイトのような印象を与えずに、充分リーチが前方に伸び、あたかも地面に入り込むかのようです。後肢は滑らかに力強い推進をします。前または後ろから見て、前肢と、飛節から下の後肢は、地面に対して垂直に動き、スピードが増すにつれていくらかシングルトラックの傾向になります。まっすぐな本来のストライドを妨害する構成的な特徴は、減点されるものです。

性質 アイリッシュセターは、陽気なはしゃぎ回る個性を持っています。内気、敵意あるいは臆病などはこの犬種の特質ではありません。外交的で落ち着いた気質こそアイリッシュセターの特徴的なものです。

1990.Sep.改訂 訳 中島眞理
IRISH SETTER CLUB OF AMERICA より使用許可を得ています。
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